2024年の大河ドラマ「光る君へ」は、世界最古の長編小説といわれる『源氏物語』の作者・紫式部が主人公の物語です。
今から1000年前、平安時代中期の朝廷や貴族社会を描く本作の見どころは、人間模様。『源氏物語』や平安時代と聞いて、敷居が高くて難しそう、と思う方もいるかもいるかもしれません。
めぐり逢ひて 見しやそれとも 分かぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな紫式部
(めぐり逢って、それが昔の友かどうかわからないうちに、姿が見えなくなってしまった。まるで雲に隠れた月のように慌ただしく。)
という、百人一首に選ばれている歌でもあり、紫式部が自分の和歌をまとめた『紫式部集』の最初に出てくる和歌があります。
久しぶりに幼なじみの女友達と再会できたのに、ほんのわずかの時間しか取れず、積もる話もできなかったことをさみしく思って詠んだ歌だと、紫式部自身が「新古今和歌集」で説明しています。時を経ても、人の心はそれほど変わりません。1000年の時を越えて、現代にも通じるのものがあるかと思います。私たちと同じように、食事を楽しみ、人を思い、災害や疫病の流行など、つらいことがあっても懸命に生きてきました。
今回のコーナー展示では、『源氏物語』とその作者・紫式部を中心に、平安時代や古典について、予備知識がなくても楽しめる本をご紹介します。
平安時代へ、本でタイムスリップしてみましょう。
古典の楽しさ、教えて!
みなさんが学校で学んだ古典は、文法についての学習が中心だったかと思います。故に、ややこしくて、高尚で、退屈なもの、と記憶している方も多いかもしれません。古典ってつまらないもの?……いやいや、それはもったいない!大人になった今こそ、古典に親しんでみませんか?古典を楽しむヒントが見つかることを願い、古典を読む楽しさを伝える本を、著者の言葉とあわせてご紹介します。
古典の世界へようこそ!
まずは、古典に苦手意識を持つあなたにオススメの2冊です。
『〈萌えすぎて〉絶対忘れない!妄想古文』 三宅 香帆
学校では教えてもらえない、古文のおいしい部分。それは―古文で描かれている、人間関係の面白さを知ること。
『古典を読んでみましょう』 橋本 治
古典というものは「そんな考え方があるの?」と教えてくれるようなものなのです。だから「読んでみましょう」と私は言うのです。
平安女流作家ブームを読む。
彼女たちは最初から「超エライ先生」だったわけではありません……。
『平安のステキな!女性作家たち』 川村 裕子
他の誰でもない自分のことばを作っていくことが、彼女たちのたった一つの世界でした。
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『平安ガールフレンズ』 酒井 順子
私が古典、それも平安女流文学に興味を抱いたのも、初めて『枕草子』を読んで、「この人とは、仲良くなれる!」と確信したことがきっかけでした。
いろんな楽しみ方あります。
古典の世界には「こ、こんな楽しみ方も!」という世界もあります。
『古典モノ語り』 山本 淳子
古典文学のなかに書かれた物には、祈りが込められている。それらは作品に書かれることによって千年の命を得、私たちに届いた。奇跡ではないか。そう思って物たちを選び、ささやかな解説を施しました。
『うん古典 うんこで読み解く日本の歴史』 大塚 ひかり
何より古典はうんこの話であふれている。
Let’s try、百人一首。
漫画をきっかけに、近年若い世代に「百人一首」が人気を集めています!
『百人一首解剖図鑑』 谷 知子
『百人一首』を通じて百種類の心にふれていると、感情が自然と形づくられていく感覚を覚えることがある。
『ときめき百人一首』 小池 昌代
和歌って大きい。そして不思議なものです。小さな器なのに時には人間の運命をすっぽりと含みとる。
平安時代へGO!してみた。
「鳴くよ、ウグイス平安京(794年、桓武天皇が平安京遷都)」からはじまり、「いい箱作ろう、鎌倉幕府(1185年、鎌倉幕府成立……“いい国(1192年)”で習った世代なので、1185年には違和感がありますが……)」まで、およそ390年間続いた平安時代とは、どんな時代だったのでしょうか?
ここでは、モビリティ、スイーツ、ファッション、キャリアといった、令和の視点から平安時代を見つめた本をご紹介します。
モビリティ
つぎに馬の中将と乗りたるを、わろき人と乗りたりと思ひたりしこそ、あなことごとしと、いとどかかるありさまむつかしう思ひ侍りしか。『紫式部日記』より
(その次の牛車に私は馬の中将と乗りましたが、馬の中将が「イヤな人と同じ車に乗ってしまった」と思っているのがありありと伝わってきて、超むかつく。)
『牛車で行こう! 平安貴族と乗り物文化』 京樂 真帆子
敦成親王を出産した中宮彰子が、実家の土御門邸から宮中に戻る場面の一コマ。紫式部ら女房は中宮彰子に従い、2㎞ほどを牛車で移動。紫式部は、仲の悪い人と同乗することになってしまったようです。狭い牛車の車内で2人きりとはキビシイっ!
ファッション
櫻の唐の綺の御直衣 葡萄染の下襲、裾いと長く引きて『源氏物語(八)花宴』より
(高級な舶来物の生地を用いた桜襲の直衣に、葡萄染の下襲の裾をとても長く引いて)
『日本の装束解剖図鑑』 八條 忠基
主人公・光源氏が、政敵である右大臣邸の藤の花の宴に招かれた際に、着た衣装を描写した場面。他の人が黒の袍衣(今でいう燕尾服のような正装)で出席しているところへ、ちょっと気崩した色鮮やかなタキシードで現れた……といったカンジでしょうか。
スイーツ
あてなるもの。(中略)削り氷にあまづら入れて、あたらしき金椀に入れたる。『枕草子』より
(上品なもの。削った氷に甘葛(あまづら)をかけて、新しい金属製のお椀に入れてあるもの。)
『古典がおいしい!平安時代のスイーツ』 前川 佳代・宍戸 香美
日本で見つかっている「かき氷」に関する最も古い記述は、平安時代中期に清少納言によって書かれた『枕草子』の中に残されています。平安時代、氷は冬に作って氷室(ひむろ)と呼ばれる穴で夏まで保管した超高級品でした。うーん、贅沢~♪
キャリア
閉ぢたりし岩間の氷 うち解けば をだえの水も影見えじやは『紫式部集』より
(岩間を閉ざす氷さえ解(溶)けてくれれば、途絶えてしまったせせらぎの水も再び流れ出し、影が映ることでしょう。)
『ワケあり式部とおつかれ道長』 奥山 景布子
人見知りで内向的な紫式部にとって、女房づとめは戸惑いと悩みの種。ついに職場に戻れなくなってしまった紫式部が同僚の女房たちへ優しく温かく迎えてほしい、とすがる思いで贈ったのがこの歌。何とも切ない紫式部の心の叫びですが、この歌も裏目に出てしまうことに……。
『源氏物語』第一巻まつり
全54帖から成る『源氏物語』は、文字数にして100万文字、今の原稿用紙に換算すると約2400枚に及ぶ長編小説です。物語の中では主人公・光源氏の誕生から孫の世代まで、70年余りの時間が経過し、広大な人間ドラマが描かれます。全てを読み終えるのは、なかなか大変そう……。
ということで、この図書館で所蔵している『源氏物語』の第一巻のみ、を並べてみました。あなたの「マイ・源氏物語」を探してみませんか?物語の続きが気になる方は、図書館スタッフまでお尋ね下さい。
明治~昭和(戦前)
『源氏物語』をはじめて現代語に訳したのは、幼少から『源氏物語』を愛読した歌人の与謝野晶子。“稀代の名訳”と名高い晶子訳は、著作権の保護期間が満了した現在、インターネット上でも読むことができます。1923年の関東大震災で完成寸前の『源氏物語』現代語訳の下書き原稿を失うという被災体験を乗り越え、刊行を成し遂げました。
戦前の『源氏物語』現代語訳といえば、生涯で『源氏物語』現代語訳に3回挑んだ谷崎潤一郎。谷崎訳は原文に非常に忠実に訳されており、原文の持つ雅やかな世界を流麗な日本語で再現しています。しかし、継ぎ目のない長文のため、初心者が読むのは難しいかもしれません。
平成
私たちに最も馴染みのある現代語訳は瀬戸内寂聴訳かと思います。中学生でも読める現代語訳を目指して訳され、子どもから大人まで楽しむことができます。「人を愛する喜びと悩みは千年前も変わらない」は寂聴さんらしいお言葉!ちなみに、講演会や朗読会などメディアミックスによる宣伝効果もあり、寂聴訳は「よく売れた」ことでも有名。250万部を売り上げ、「平成の源氏ブーム」と話題になりました。
平成の現代語訳では、橋本治も『窯変源氏物語』有名。原作は女房の語りで綴られるのに対し、「光源氏の一人称語り」で物語が進む、一種の翻案小説。
多彩な『源氏物語』
まずは『源氏物語』全巻をほぼ原文に忠実にマンガ化した『あさきゆめみし』。この作品で『源氏物語』にはじめて触れた、という方も多いはず。シリーズ累計発行部数1800万部を誇るロングセラー作品です。
続いて、末松謙澄訳の英語版『THE TALE OF GENJI』。世界各国の32の言語で翻訳され、世界各地で読まれている『源氏物語』。海外では、どのように『源氏物語』が読まれているのか、この機会に触れてみるのも良いかもしれません。
最後に、一度は原文で『源氏物語』を読みたい!……と思った方には『新日本古典文学大系(19)~(23)』をどうぞ。
『源氏物語』の世界を歩く。
『源氏物語』、一度は読んでみたいと思いつつも、全54帖におよぶ超大作ゆえ、ハードルが高い!……という方も多いかと思います。ということで、『源氏物語』の世界を歩くためのガイドブックをご用意しました。『源氏物語』未読の方にも楽しんで頂ける本をはじめ、こんな読み方もあるんだ!……と教えてくれる本もまとめてご紹介します。では、一歩ずつ歩いてみましょう。
一歩目
『紫式部と源氏物語(ビジュアルでつかむ!古典文学の作家たち)』
紫式部ってどんな人?『源氏物語』ってどんな作品?……というギモンに答えてくれる児童書。イラストや図が豊富で、タイトル通り“ビジュアル”で理解を深めることができる一冊。『源氏物語解剖図鑑』
姫君をネコ、殿方をイヌのイラストで、『源氏物語』や紫式部が生きた平安時代に一見ゆるく、しかし意外に深く迫る本。全54帖の各1帖を見開き1ページにまとめる、というわかりやすい構成でまとめられ、大河ドラマの予習にもピッタリ。
二歩目
『源氏姉妹(しすたあず)』 酒井 順子
光源氏の“元カノ達”による赤裸々なガールズトークが繰り広げられる本。巻末の「シスターズ座談会」は、現実には面会することはなかった彼女たちが女子会を開く……という著者の妄想に脱帽!『ミライの源氏物語』 山崎ナオコーラ
ロリコン、ルッキズム、マザコン……現代を生きる私たちが『源氏物語』を読むとモヤモヤする“あのカンジ”を解き明かす一冊です。「倫理観」というハードルを乗り越えて、『源氏物語』を、どうやって未来に繋げていくかを考えて書かれた作品。
三歩目
『源氏物語の教え もし紫式部があなたの家庭教師だったら』 大塚 ひかり
一人娘を持つ、シングルマザー紫式部が中宮彰子の家庭教師となり、宮中サロンを盛り立てるために書いた『源氏物語』。実は、「女子が幸せになる方法」を教える実用書でもあるようで……。『愛する源氏物語』 俵 万智
歌人の俵万智さんが、心の通い合い、すれ違い、かけひきなどを、『源氏物語』に登場する795首の和歌を中心に読み解きます。「和歌は心の結晶、氷砂糖をなめるように味わったならば、さらに豊かな表情を見せてくれる」は、俵万智さんならではのお言葉!さすがっ!
四歩目
『「源氏物語」の色辞典』 吉岡 幸雄
平安王朝の多彩な「襲の色目(かさねのいろめ)」を『源氏物語』五十四帖に沿って再現。光源氏の愛した色と装束が今甦ります!ページをパラパラとめくっているだけでも、目の保養になります。『雅楽「源氏物語」のうたまい』 佐藤 浩司
『源氏物語』には音楽に関する記述が200カ所以上見られ、平安時代の他の物語と比べて、質、量とも抜きんでています。詩歌管弦は貴族のたしなみ……『源氏物語』のBGM、平安の調べに耳を傾けてみませんか?
「光る君へ」私たちも出演中!
大河ドラマ「光る君へ」に出演中(予定)の“あの人”が登場する小説を中心に、平安時代が舞台の小説を集めました。ドラマとは違う顔を見せてくれる本があるかも……!?
藤原道長
『藤原道長王者の月』 篠 綾子
兄や同世代のライバルに引けを取った若き日から、貴族社会の頂点へ──。“あること”をきっかけに運をつかんだ藤原道長の激動の生涯を描いた小説。賢子(大弐三位)
『源氏五十五帖』 夏山 かほる
藤原道長の命令で、紫式部の娘・賢子が、『更級日記』の作者・菅原孝標女・更科とコンビを組み、幻の『源氏物語』五十五帖を探索するミステリ小説。最後に2人が目にするものとは一体?藤原彰子
『月と日の后』 冲方 丁
わずか12歳で一条天皇のもとに入内した、藤原道長の娘・彰子の生涯を描く小説。父や夫に照らされる月でしかなかった彰子が、紫式部にも支えられ、やがて国母として自ら光を放つことに──。
藤原隆家
『刀伊入寇 藤原隆家の闘い』 葉室 麟
藤原道隆の四男・隆家は、貴族の家に生まれながら、「さがな者(荒くれ者)」と呼ばれていた。道長との闘争に敗れた隆家は、自ら望んで任官した大宰府の地で、異民族「刀伊」の襲来を迎え撃つことに!
安倍晴明
『陰陽師』 夢枕 獏
『陰陽師』(漫画版) 岡野 玲子(夢枕 獏/原作)
平安時代の陰陽師・安倍晴明の活躍を描いた伝奇小説。テレビドラマ化、映画化、アニメ化もされ、全世界で累計600万部を超える大ヒット小説。図書館では漫画版も所蔵しています。
赤染衛門
『月ぞ流るる』 澤田 瞳子
宮中きっての和歌の名手といわれた『栄花物語』の作者・赤染衛門(朝児)が主人公の小説。この作品の中で、紫式部は『源氏物語』の作者として有名な“老女”として登場し、主人公に影響を与えます。
徹底比較!紫式部と清少納言~2人はライバル?~
平安時代の二大女流作家といえば、紫式部と清少納言。「光源氏」の名前や「春はあけぼの」という一節を聞いたことがない人は、おそらくいないではず。常に比較され、常にライバル視されるこの2人ですが、実は宮廷に出仕していた時期がビミョーにずれており、会ったことはない……というのが、真相だったようです。
ということで、この2人はホントにライバルだったのか?図書館の本を読んで比較してみましょう。
紫式部 973~1014(諸説あります)
どんな人?
母が早世したため、学者であった父・藤原為時に育てられる。父と越前に下った後、20歳近く歳上の藤原宣孝と結婚し、賢子という娘に恵まれたものの、夫が病死。
『源氏物語』は「夫の死」という悲しみから立ち直るために書き始めたもの、と考えられている。『源氏物語』が藤原道長の目に留まり、一条天皇の后・彰子(藤原道長の娘)に仕えはじめる。
本で読むと?
『千年の黙 異本源氏物語』 森谷 明子
紫式部が探偵として謎解きをする歴史ミステリ小説。消えた猫の謎や、『源氏物語』幻の帖が行方不明となった謎を、紫式部がズバリ解決!続編も刊行されています。
『紫式部は今日も憂鬱』 堀越 英美
紫式部が仕えた宮中での様子を中心に書いた『紫式部日記』を、執筆時の紫式部の年齢が30代であったことを踏まえて、令和の30代OL風の話し言葉で訳した作品。
お互いをどう見ていた?
『紫式部日記』の中で、「清少納言こそ、したり顔でいみじうはべりける人」、つまり「清少納言って、得意になって偉そうにしている人よね」と、書いています。亡くなった夫を『枕草子』で悪く言われたことを怒っていたのかも……。
清少納言 966~1025(諸説あります)
どんな人?
父は有名な歌人の清原元輔。自身の離婚後、一条天皇の后・定子(藤原道隆の娘)に仕える。しかし、道隆の病死により、運命は一転。定子の兄・伊周と叔父・道長の間で権力闘争が勃発。定子も出産で亡くなってしまう。
定子の死後、宮仕えをやめた清少納言は、つらい思い出は描かずに、定子と過ごした輝かしい宮廷生活を振り返り、『枕草子』を書き始めた、と考えられている。
本で読むと?
『砂子のなかより青き草』 宮木 あや子
定子と清少納言の絆を描く小説。定子に仕えることとなった、なき子。女が学問をつけても良いことは何もない、といわれる時代、定子は、なき子に「清少納言」という新しい名を授ける。
『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』 ミア・カンキマキ
清少納言に憧れる現代のフィンランド人女性によるエッセイ。「自分の人生に飽きた」38歳の著者は長期休暇を取得し、『枕草子』を学ぶために1年間日本に滞在することを思いつく。
お互いをどう見ていた?
『枕草子』の中で、「右衛門佐宣孝といひたる人は(中略)いみじうおどろおどろしきなどを着て(中略)詣でたりける……」、つまり「右衛門佐の宣孝という人(紫式部の夫)は、とても派手な服を着て、参詣した……」と、宣孝の派手な服装を書いています。