日本全国、47都道府県を舞台とした本を集めました。
今年の夏は、「本」で日本一周の旅に出掛けてみませんか?
旅のガイドとして、ブックリストをご用意しました。
北海道
『神さまたちの遊ぶ庭』 宮下奈都
トムラウシへ引っ越すことを決めてからは、勢いまかせだった。行くと決めたのだから、楽しもう。無理にそう思うより先に、楽しいに違いない、という気持ちのほうがどんどん強くなっていった。自然の中で暮らしたいという願いは、これまで口にしたことがなかったのが不思議なくらい、身体の中で育っていたみたいだ。チャンス。そう思ってもいい気がした。
神奈川県
『明るい夜に出かけて』 佐藤多佳子
横浜の海の色は、みんな同じなのかな。前に、横浜港で見た海も、こんなふうに青くないなと思ったんだ。天気や季節で変わるのはわかってるけど、そう、逗子海岸の海には確かに青の要素があった。 俺は人生で何回、海を見ているのかな、いくつの違う海を見ているのかなと考えた。違う海って何?違う場所で見る海?十以上百以下?わかんねえなァ。
富山県
『田園発港行き自転車(上・下)』 宮本輝
私は、いちにちに一回は、心のなかで富山湾を背にして黒部川の上流に向かって立ち、深い峡谷がそこで終わって扇状の豊かな田園地帯が始まるところに架けられた愛本橋の赤いアーチを思い描く。 どんなにいやなことだらけのいちにちであっても、六畳一間の古いアパートに帰って来て、息をするのも億劫なほどに疲れて畳の上に突っ伏してしまっても、烈しい清流の彼方に見える赤い橋は必ず私の心に浮かぶ。
京都府
『異邦人(いりびと)』 原田マハ
「それで、京都は、思った通りの街でした?」 ウェイトレスは苦笑いをした。そして言った。 「いつまで経ってもなかなか受け入れてもらえない気がして。なぜだかわからないのですが……」 まるで自分は異邦人になったように感じると、冗談めかして言ってから、一礼して、テーブルを離れていった。
高知県
『夏のくじら』 大崎梢
丸い欄干にもたれかかり顔を上げると、自然と歌がこぼれ出た。
土佐の高知のはりまや橋で 星のまにまに かげさがす
これから自分は遠い空を見上げて、多郎のことを思うのか。(中略)右に左にさまざまな衣装を着込んだ踊り子たちが行き交う。風に乗ってよさこいのメロディが聞こえてくる。今年が最後。来年はもういない。
長崎県
『遠い山なみの光』 カズオ ・イシグロ
朝ご飯がすんでまもなく、緒方さんはいっしょに長崎見物にでかけないかと言いだした。「観光客みたい」にまわろうというのだ。わたしもすぐに賛成して、二人で市電で市内へでかけた。わたしたちはたしか、しばらく美術館を見てから、そろそろ正午(ひる)になるころ、市街の中心部からそう遠くない大きな公園にある原爆祈念碑へ行った。