コーナー9「手のしごと。」

手のしごと

貴方がたはとくと考えられたことがあるでしょうか、 今も日本が素晴らしい手仕事の国であるということを。

『手仕事の日本』 柳 宗悦

打つ。

ルリユールはすべて手のしごとだ。 (中略)
本には大事な知識や物語や人生や歴史がいっぱいつまっている。
それらをわすれないように、未来にむかって伝えていくのがルリユールの仕事なんだ。
60以上ある工程をひとつひとつ身につけ、最後は背の革に金箔でタイトルをうつ
ここまできたら一人前のルリユールだ。

『ルリユールおじさん』 いせひでこ

絞る。

あたしゃ人ができないことをするのが好きなもんだから、じゃあ、剥げないように絞ってみようじゃないか、というわけで、まず何工程にするかを考えた。
急激に絞ったんじゃ金属が割れてしまうし、工程数が多いとコストが高くなってしまう。(中略) 結局、剥げないように絞るのに、半年ぐらいかかったかな。

『あしたの発想学 いかにして痛くない注射針はできたのか!?』 岡野雅行

結ぶ。

私も本当にそう思うんです。おむすびには、人と人とを結びつける
力が確かにあります。(中略)
手でじかににぎるという、人との結びつきを強く感じさせられる食べものだからこそ、食べた人に豊かさを与えるし、つくった人もまた豊かな気持ちになるのだと思います。

『いのちの森の台所』 佐藤初女

削る。

ヤリガンナは、体全体でひくのがいい。腹に力を入れて、一気にサッとひく。小手先では使いこなせない。一言でいえば、
― へそで削れ
のちに、若い人にもこう言って教えた。経過を記せば短い話だが、私にしても習得に三年はかかっている。

『宮大工棟梁・西岡常一「口伝」の重み』 西岡常一

挽く。

登瀬は毎日粗鉋の刃を櫛木に当てているのだが、力加減が掴めず苦労していた。(中略)
「なんも難しいことはねぇで。ただ力んではなんね。撫でるように鉋の刃を滑(ひな)らせて、少しずつ面をならせばええんだ」
「それだと板が挽けん。だが。上さ滑るばっかりね」
「慣れろ。道具をわがものにしなければ。あとはわれで工夫(かんこ)すろ」

『櫛挽道守』 木内昇

漉く。

澤村さんの声は大きく、力強い。
「わしが漉くのは障子紙じゃで、部屋に品位を保つもんを作らなあかんのです。大事なんは自然やな。この水と空気。それときれいな心や。陽の気持ちで漉く。これは紙に出るんやで」。

『手仕事のはなし』 阿部了, 阿部直美

話す。

荒井は答える。美和がなに? というような仕草をする。聴こえない、と言っている。みゆきも出てきた。二人で何か話している荒井には聴こえない。やがてこちらを向き、二人そろって手を動かした。
親指以外の四指を合わせた手を、前の方から胸の方へと斜めに引き寄せながら、親指とも指先を付け合わせる。(中略) 〈おかえりなさい〉 二人でそう言っていた。

『龍の耳を君に デフ・ヴォイス新章』 丸山正樹

染める。

「すみませんでした」
厳しい口調の師匠の言葉に、柊子はうなだれた。確かに教えられた記憶があるものの、何色が染まるのだったかも忘れてしまっていた。
「今日は後で信子さんにも来てもらって反物を染めるの。そういうときは心を鎮めないと」
師匠は少し表情を和らげて、柊子に諭した。

『草の輝き』 佐伯一麦

刺す。

どんなことを考えながら刺していますか?
 うーん・・・・・・何だろうね。「うまくできれば」という気持ちもあるし、そのときそのとき。
 あんまり考えないでできるのもいいのかなあ。無心でできるからね。でも、そのときの気分によって、できあがりが違いますよね。
  どんな仕事も同じだけど、心込めてないと失敗するよね。仕上がりもきれいじゃなくて。

『復興から自立への「ものづくり」』 飛田恵美子

作る。

必要なものを作ること 欲しいものを作ること
それは希望も作るということ
人がその手で作るもの たくさんの 少しの 思い思いの
大切なものと そして その希望を
手に持って、行こう!

『手に持って、行こう ダーリンの手仕事にっぽん』小栗左多里, トニー・ラズロ

割る。

カミングス 巨大な岩石をどうやって割るんですか?
ノグチ 楔を打ちこんで、ハンマーで叩き、割れ目を入れて割る。ものを割ることで破壊する。問題はそれをいかに計画的にやるか、そして計画はあるかだ。たいていの場合は、自分でやろうと計画することは自分が得る結果ではないということになる。破壊が石に新たな性格をあたえるからだ。石を割ることによって、いわば分子の内部にはいりこむ。

『イサム・ノグチエッセイ』イサム・ノグチ

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